愛知県常滑市の救急救命士について、2011年2月に交通事故負傷者を救急搬送した際、救急車内で実施した点滴行為が法規違反にあたり市が処分を検討しているというニュースが流れた。
新聞報道によると、大量出血で意識がもうろうとしていた負傷者に対し、「生命の危険がある」と判断した救急救命士が、救命したいという一心で救急車内で点滴をおこなったことが問題になったとのこと。法律上、救急救命士は心肺停止状態の際には点滴ができるが、この負傷者は当時心肺停止状態ではなかったことが法規違反とされたという。
悪意を持った故意の行為でもなく、また重大な過失でもなく、逆に救命行為が法規違反に問われてしまう、これは法律の不備ではないか。法規違反だからとして杓子定規に処分を検討するというのはいかがなものか。
そういえばかつて、旧国鉄で1969年、走行中の寝台特急「日本海」がトンネル内で火災を起こす事故があった際、乗務員は機転を利かせて列車をトンネル外まで走行させてから停車させて消火活動に当たり、死傷者は出ずに済んだという事故があった。当時の国鉄当局はこの行為を「速やかに列車を停車させなかったことは内規違反」として乗務員を処分した。国鉄は教訓を生かさず、その後1972年に発生した急行「きたぐに」の北陸トンネル列車火災事故では規則通りトンネル内で停車せざるを得ず、結果的に多くの死傷者を出すことにつながったという話も思い出した。(なお日本海乗務員への処分は、北陸トンネル事故後に撤回されている)
今回の件でも、杓子定規に処分して法改正をおこなわなければ、今後「技術的には救命措置をとれるはずの件でも杓子定規に対応して対策を見送らざるを得ず、結果的に救命できなかった」という事例が起きないとも限らない。法律の不備ならば、法律の方を状況に合わせて必要な改正をおこなうべきではないか。